『ローマ人の物語』を読んで(6)

 きょうは、家にこもっているのがもったいないようなよい天気です。大分からは楽しそうな写真が次々にアップされており、ますますじっとしていられない気持にもなりますが、家族も出かけていてまとまった時間を自由に使えることもあって、読書感想を書くことに決めました。

ローマ人の物語 (3) 勝者の混迷

ローマ人の物語 (3) 勝者の混迷

 『ローマ人の物語』、前回はハンニバル戦記(文庫本では、3〜5巻)でしたが、今回は強国カルタゴが滅び地中海世界に覇権を持つことになったローマの話になります。
大きな戦争に勝利したからと言って、それでばんばんざいとはならないもので、国が大きくなれば次々と問題が発生してきます。
 ひとつは、“市民権”に関してです。ローマ領内に住むだけでローマ市民権を取得できたり、解放奴隷であっても条件を満たせば市民権を認められるといった、ローマ独特のずいぶん寛容だと感じることですが、この“市民権”についても時が過ぎるうちに(第二次ポエニ戦役後)不満を持つ人々がたくさん出てきて、争いが起こりはじめます。文庫本では、6と7、勝者の混迷、という副題が付いているあたりです。
 市民権を持つ人と、そうでない人で、これまではあまり差がなかったのに、どちらかが有利になってくると、世の中は動きだすものだと読んでいるとわかります。
 また、この時代に多くの改革を行ったグラックス兄弟の話を読んでいて、心に残る、現代にも通じることだろうと思った部分を抜き出してみました。(奴隷の存在はないものの、“失業”ということに関して考えさせられます。)

 大規模な農園を兵役に徴用される心配のない奴隷という安定労働力を使って経営するようになれば、収益の増大は眼に見えている。おそらく、ローマの国全体からすれば、農業生産は増大したであろう。だが、経済的に良いことは社会的にも良い結果をもたらすとはかぎらない。それは、借金のかたに取られたり価格競争に敗れて手放したりして土地を失った、元自作農の失業者の出現だった。・・・・・(中略)・・・・
 多くの普通人は、自らの尊厳を、仕事をすることで維持していく。ゆえに、人間が人間らしく生きていくために必要な自分自身に対しての誇りは、福祉では絶対に回復できない。職をとりもどしてやることでしか、回復できないのである。(ローマ人の物語3 勝者の混迷 P.38〜39 )

戦争から帰ってみると、自分の耕すべき土地はなく、失業してしまう人々(農民たち)がたくさんで、社会問題となっていったようです。
グラックス兄弟が登場しさまざまな改革を行いますが、ある人々に有利であることは別の人には不利な立場になることでもあり・・・そんな状況で反対派によって殺されてしまいます。
 敵は内にあり、ということでしょうか、なかなか争いのない時代はやってきませんね。
 ユリウス・カエサルの生まれる40年くらいまえのローマの話です。