『濹東綺譚(ぼくとうきだん) 』を読む


墨東綺譚

墨東綺譚

 永井荷風さんの小説は、今回はじめて読みました。まず、濹東綺譚 、題の意味からしてよくわかりませんでしたが、注釈(P.111)を見ると、>濹は濹水、隅田川の異称。その東岸の地。玉の井(今の墨田区寺島町)の私娼街もこの地域にあった。「濹東綺譚 (ぼくとうきだん)」の舞台は、こうした下町の色町や繁華街である。<  とありました。


 荷風さん57歳の時書かれたものですが、テーマは(老いと男女の愛)・・・バルバラさんの書かれた『日本文学の光と影』参照・・・のようでしたが、私が読んだ印象では、“老い”のわびしさをあまり感じる事はありませんでした。自分の目線が荷風さんの年に近くなったからかもしれません。
 ストーリーは、主人公が夕立にあった時お雪という女性と出会い、そこから話がはじまりますが、二人の年はずいぶん離れており、私娼である女性(お雪さん)からは好意を持たれるのですが、いろいろな事情から別れるまでを描かれていました。


 昭和11年頃の東京、下町の様子など、目の前に見えるように書かれていて、時を越えて下町の散歩をしているような感じです。男女のどろどろした難しいムードではなく、少し距離を置いた所から眺めているような、たんたんとしていて、女性も境遇から察するほど暗さがなく描かれていました。
たとえばこんな描写・・・>お雪はあの土地の女には似合わしからぬ容色と才智とを持っていた。鶏群の一鶴であった。・・とか、
>お雪は倦みつかれたわたしの心に、偶然過去の世のなつかしい幻影を彷彿たらしめたミューズである。・・、
>お雪は今の世から見捨てられた一老作家の、他分そが最終の作とも思われる草稿を完成させた不思議な激励者である。    などです。


 読みなれていない文章ですので、何度か繰り返して読んでいるうちに、内容がよく理解できるということもあります。そうした中、所々にある“挿絵”は、ほっとするところでもありますし、文章と照らしながら見ますとより情景がリアルに想像できて、楽しめました。
 ちゃんとした感想になりませんが、きょうはこのあたりでおくことにします。


※右上の写真は、荷風さんの小説とは関係なくて紛らわしいのですが、海水浴場にて撮影したものです。